西の魔女が死んだ
梨木 香歩
★★★★☆
引きこもりになった中学生のまいが祖母の家で2ヶ月間過ごし、社会復帰していくストーリー。日本の山奥で暮らす英国人の祖母が「魔女」という設定。そこで、まいは「魔女修行」をするのだが、行っているのは周囲の声や自分の一時の感情に左右されない心の強さを身に付けること。
単調ながらも変化する自然の中で、いわゆる「丁寧なくらし」が描かれる。
産みたての卵を朝食にし、摘んだベリーでジャムを作り、たらいで洗濯をし、ラベンダーの香りのするシーツでベッドメイキングをする。
今の生活にはない暮らし。
子供の頃は、自宅の木々や花々、畑で四季が身近にあった。今は一日中スマホを手にしてパソコンを見て、キャンプやスキーなど特別なレジャーでなければ自然を感じることがない。
祖母の丁寧な暮らしぶりは、憧れではあるけれど現実的にはツッコミどころがたくさん。
そもそも、その生活資金はどこから出ているのか。
車がなくては買い物に不便な土地で自給自足だけで暮らしていけるのか。野菜作りも相当な体力が要る。
冬は雪が降るのに、かまどしか暖房器具のない暮らしでは極寒で体調を崩しそう。お風呂場での心臓麻痺が心配。
祖母はぽっくりだったけれど、介護が生じていたらこじれそう。正直、残された家族には理想的な親の最期に違いない。
祖母は祖父の墓に入ったのか。残された者にとっては居住地から遠く、墓守も大変そう。
主人公のお気に入りの場所は祖母によって主人公名義に書き換えられていたようだが、贈与税の計算が煩雑になるのではなかろうか。物語が書かれた当時は生前贈与に関する法律はなかったのだけれど。
こうして現実に気付くと、祖母の生活はファンタジー。
24年前の初版当時は今ほどファンタジーではなかったのかもしれない。これからますます、ファンタジー感が強くなっていくのだろうか。
失われつつあるファンタジー生活だけれど、描写が活き活きしているので読んで清々しい気持ちになる。
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